
ずっと頑張り続けるなんて無理。
苦しいって言えないなんて無理。
夜の散歩に一緒に行ってくれないのも無理。
ずっと強く凛として、取り乱さない女になんてなれない。
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何度も念を押しましたけどもそれでも、
毎日毎日、最寄駅まで会いに来て、
誕生日には大きな花束持って、
「どんな貴方も受け入れたい」
なんて言った男はどこのどいつだ。
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結局、手のかからないいい子じゃないと、ダメなんでしょう。許せないんでしょう。
自分の時間とか生活とか、貴方のルールやペースが何よりも大切なんでしょう。
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嗚呼。
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すみません、瓶ビール1本。
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え、アサヒかサッポロ?
サッポロがいいです。
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あと、お母さんごめん、やっこの薬味乗せも。
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あぁ、煩わしいなぁ。
こんな想いしたくないから何度アプローチされても、心が揺れるような言葉をささやかれても断ったのに。
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仕事が一番いい、裏切らないし。
それに、誰かといたら、どうしても弱くなる。
優しさをもらいたくなる。
そしたら、必要以上に求めるようになってしまう。
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「瓶おまちどー」
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あ、ありがとうございます。
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細長い透明のグラスにコトコトとビールを注ぐ。
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私の相容れない「虚無感」という心の空洞にも、このビールを流し込めたらいいのに。
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瓶をゴトンと机の上に戻す。
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はぁ。
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プクプクと消え出す泡を視覚でとらえ、焦ってグラスを掴む。
太陽を沢山浴びた小麦が、黄金色の液体となってガラス越しに私を眺める。
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じめじめとした6月の頭。
夏の予感。
私の至らなさ。
貴方は受け入れなかった、私の弱さ。
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うるせぇな、これが私なんだよ。
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人よりも強いけど、人よりも弱くて、
いつも全力だけど誰に対しても一生懸命だけど、
その分愛情をもらいたくて。
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私の口は小さい。耳の穴も。
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でも沢山聞こえる。嫌なことも良いことも。たくさんだって、食べれる。
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ゴクゴク…と喉を鳴らして、思い切りビールを流し込む。口から沢山の細胞を伝達して、全身に行き渡る。
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「はぁーーー、う、んま。」
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おい、そこの経営者の自己中クソ男。
やなぎの私が将来何になるのか知ってんのか。
それがどんなに美しく人目をひく色彩を解き放つか、知ってんのか。
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2回目のグラスを持ち上げて、グビグビと一気に飲み干す。
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飲み干したビールをカウンターに置くときの
小さな、「ドン」が心地いい。
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「はいー。なっちゃんお待たせー。薬味やっこだよ。みょうがたっぷりね。」
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いや、前田裕二氏だってあの石原さとみ様を手放した。それはさとみ様が、寂しがりやだったからだという。さとみ様に会いたいとか寂しいなんて言われて、煩わしく感じる男がいるなんて。
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え、結局何?
女は強くなきゃいけないの?
寂しさを求めたらいけないの?
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もうわかんない。
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「お母さん、あのさ、私ね、」
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どしたの?
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「私、もうちょっとで脱皮するわ。」
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「脱皮。」
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「そう。脱皮。」
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「なっちゃん、蝉だったの?」
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蝉。
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蝉かぁ。
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石原さとみには到底なれそうにもないけど、
自分の着てる重い殻を破ってね。
右手を一本、左足を一本づつ外に出して。
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私を傷つける茎なんかに縋り付かないで、
いらないよ、って手を離して。
自分で羽を広げて飛び立てる日は。
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もう少し。
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コメント
なんだろう。
悲しいとか辛いとかの気持ちなのだけれど
うつりゆく心の中が
川の流れのように
観ていられる
ステキな文字たちです。
いつか流れ流れて
心許しあえる方に出会えますように。